起業家精神の醸成、キャリア教育の推進、若者の意識の変化等の社会的な背景、そしてAO入試で評価される活動実績も相まって、高校生向けビジネスコンテストが活況を呈しています。
今回は、高校生ビジネスコンテストについて日米比較を交えて考察します。

国内の代表的なビジネスコンテストの一つである日本政策金融公庫が主催する「高校生ビジネスプラン・グランプリ」は、2024年に応募総数:5,151件(536校)に上り、海外では、高校生によって創設された(現拠点:米国メリーランド州)世界で最も権威のあるバーチャル起業家コンテスト「Blue Ocean Student Entrepreneurs Competition」が、参加者:9,800人、国と地域:161、学校数:4000+ に上り、両コンテストともこの10年間で応募数が伸びています。
両コンテストを以下の項目で比較してみました。
項目 | 高校生ビジネスプラン・グランプリ | Blue Ocean Student Entrepreneurs Competition |
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目的 (ミッション) |
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応募内容 | ビジネスプランシートをもとに作成して応募 | プレゼン用テンプレートをもとにプランを作成し、5分間のピッチビデオを録画して応募 |
審査プロセス | トップ10 発表 最終審査会(プレゼンテーション)で決定 | トップ100→トップ30→トップ10 ※各発表 オンラインライブ最終審査で決定 一般投票によるPopular Choice Awardあり |
審査基準 | 商品・サービスの内容 顧客 必要な経営資源 収支計画 | |
サポート | 学生向け出張授業 審査結果フィードバック | 応募者向けブルーオーシャンミニコース(ウェビナー) 各種トレーニングビデオ 審査結果フィードバック 教師および学校向けコンテスト参加促進インセンティブ |
賞金 | グランプリ:20万円 | 1位:1,000ドル、地域優勝者:各500ドル、ピープルズチョイス:750ドル |
プロモーション活動等 | 地区発表会の開催 | 参加証明書の付与 教員、スポンサー、アンバサダー、審査員、グローバルパートナーのネットワーク形成 |
両コンテストの特徴は以下の通りです。
- 先生が学校のステイタス向上も視野に学生の応募を積極的にサポート
- 個人またはチームによるプラン作成
- 出張授業やオンライントレーニングの提供
- ビジネスプランシートとプレゼン用PPTテンプレートによる様式(フォーマット)の統一
- ピッチビデオの参照性と利便性を活かした友達や家族からの一般投票の促進およびコンテストの認知度アップ
- 審査評価項目の重みづけとルーブリック形式の評点の採用
- 審査結果フィードバック
- 地理的制約から解放された完全オンラインによる表彰事業の運営
- 教員、スポンサー、アンバサダー、審査員、グローバルパートナーのネットワーク形成による表彰制度のすそ野拡大
審査基準の相違に象徴される様に「Blue Ocean Student Entrepreneurs Competition」は、起業家精神とグローバルな競争の準備に力点をおき、ビジネスプランの質を高める上でブルーオーシャン戦略を根幹に据え、その啓発をはかっている点が最大の特徴となっています。一方、「高校生ビジネスプラン・グランプリ」は、身近なテーマからビジネスへの関心を高め、コンテストを通じてビジネス体験、知見を深めることを主眼とした、参加者にとって間口の広い取り組みになっています。
「Blue Ocean Student Entrepreneurs Competition」は、高校生向けのビジネスコンテストとして、ハードルが高い印象を受けます。しかし、欧米で開催されている主要な大学生向けビジネスコンテストの多くは、応募時点で既に起業しているか、起業予定であることが前提となっており、改めて学生向けビジネスコンテストのレベルの違いを感じます。
両コンテストの特徴を踏まえ、今後、学生向けビジネスコンテストが克服すべき7つの課題と改善策をまとめました。

1.参加者の偏りと多様性の欠如
多様な視点やアイデアが生まれにくくなる
改善>多様な学生の参加を促進するための広報活動や募集方法の工夫
2. 審査基準の不明確さと公平性の問題
参加者のモチベーション低下につながる
改善>明確で客観的な審査基準の設定と、審査員のトレーニング
3. 実践的なサポートの不足
コンテストでの成果が社会で実現されないまま終わる
改善>コンテスト終了後の継続的なサポート体制の構築
4. 教育的効果の偏り
学生の総合的な成長に繋がらない
改善>ビジネスに必要な多様なスキルを育成するためのプログラムの導入
5. 応募者の負担が大きい
学業との両立が難しく参加を諦めてしまう学生もいる
改善>応募者の負担を軽減するための応募プロセスの簡素化や、デジタルツールの活用
6. デジタル化への対応の遅れ
参加者の利便性が低下し、運営側の効率も悪くなる
改善>デジタル化を積極的に進め、運営側、参加者側の負担を減らす
7. 主催者の事業体制、運営ノウハウの問題
事業運営の刷新が容易でない
改善>コンテストの価値向上および収益化を目的とした事業の再定義
これらの改善策を実施することで、ビジネスコンテストは学生にとってより有意義な体験となり、学生の起業家精神を育成し、社会に新しい価値を生み出す原動力となります。
現在、「Blue Ocean Student Entrepreneurs Competition」は、AIを活用したオンライントレーニング「BLUE OCEAN SPRINT with AI NAVIGATOR」を提供しており、他方、日本では、都立高 「生成AI」など新科目の設置に向け教材開発へ(2/26 NHK首都圏ニュース)などの取り組みが進展しています。
これから、生成AIの進化に呼応して多種多様な(一見スマートな?)ビジネスアイディアやビジネスプランが世界中に溢れると予想され、ビジネスコンテストは新しいステージを迎えます。